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育ちの傷とどう向き合うか ~アダルトチルドレンとして生きること~
最近、「毒親」ということばをよく目にします。
この言葉が示すのは、親子間の関係が深い問題として、私たちの生活に影を落としている、ということでしょう。
ここでは、アダルトチルドレンというキーワードを通じて、
何が「毒」なのか、そして私たちはどのように対処していくべきなのか、探っていきたいと思います。
アダルトチルドレンは正式な病名ではありません。
もともとは親がアルコール依存症である子どものことをこう呼んでいました。
現在では、虐待や家族内の不和などでトラウマを持ち、大人になってからも生きづらさを抱える人のことを広範囲に指します。
特徴としては、
自分には価値がない、などといった自己評価の低さ、人への不信感、人間関係を維持できない、本当のことが言えず嘘をつく、他者と自分との距離を感じる、
衝動的に問題行動を起こす、抑うつ症状、不眠、生きている実感がない、などがあげられます。
アダルトチルドレンとなる原因には、以下のようなことがあります。
・心理的な虐待
無視する、罵声を浴びせる、脅迫する、親同士のケンカ(DV)を見せる、兄弟姉妹間で差別して扱う、など。
・身体的暴力
殴る蹴るなどの暴行、戸外に長時間締め出す、など。
・ネグレクト
基本的な衣食住の世話をせず、放置する。病院や学校に行かせない。同居人が虐待しても放置する、など。
・性的暴力
行為を強要する、性器や性交を見せる、ポルノグラフィーの被写体とする、など。
子どもが育っていくなかで、家庭がやすらぎの場ではなく、
いつも緊張していた場合、人への信頼感が育たないまま大人になり、心の成長が妨げられます。
また、上記のような明らかな虐待等がない「普通」の家庭の場合にも、機能不全を抱えていることがあり、
アダルトチルドレンは決して特別な存在ではありません。
なお、家庭内のDVが脳やその後の精神的な成長に与える影響も指摘されています。
両親間のDVを日常的に目にすると、目で見たものを認識する「視覚野」の一部が萎縮する、という研究結果が報告されています。
また、DVを見た嫌な記憶を何度も思い出すことで、脳の神経伝達物質に異変が起き、
いろいろな精神症状を引き起こすのではないか、とも言われています。
では、自分の抱えている生きづらさが成長過程にあると思われる場合、
私たちはどのようにその傷と向き合っていけばよいのでしょうか。
アダルトチルドレンの場合、自分には価値がないという強い劣等意識があります。
こういった自分への評価感情を「自尊感情」と呼びます。
これが低いままだと、「自分はダメな存在だ」という思いが常に離れず、人間関係がうまくいかなかったり、
強迫行動や依存症へとつながるケースがあるのです。
こういった状態を認知の歪みとし、認知行動療法などを通して改善しようとする方法が心理学では取られています。
自分でもできるトレーニングの一部として、予想される難しい人付き合いの状況に対して
あらかじめ解決方法を考えておく、というものがあります。
この状況ではこう言う、こう行動するなどと決めておき、
その行動が出やすいように自分を安心させる言葉(例えば「大丈夫」など)で自分を励ますようにします。
衝動的な発言や行動では失敗していたことも、あらかじめ模範解答を用意しておき、
それがうまくいったときには、成功体験となり自尊感情の回復につながります。
また、自分をほめる言葉を自分に意識的にかけたり、書き出したりしてみる、というのもよい方法です。
自分をほめるのは恥ずかしい気持ちもしますが、心の中でもいいので
「○○(自分の名前)、いつも頑張っているね。ありがとう」などと自分に声がけしてあげてみてください。
抵抗がある人は、夜寝る前など一日一回からでも構いません。
自分を責めたり卑下したりするやめられないクセである「自動思考」が、少しずつやわらいでいく可能性があります。
アダルトチルドレンにとって、親との関係は大きな要素となりますが、
「毒親」だからといってその責任を追及することが解決につながる、というわけではありません。
大事なのは、自分が不当な評価を受け、間違った自己認識を受け入れてしまったがために、現在の生きづらさがある、と気づくことなのです。
自分を正しく評価し、少しでも生きやすくなること・・・育ちの傷と向き合うことは自分が自由になるための第一歩なのかもしれません。